以前「くるみ割り人形」を朗読と演奏でお贈りするコンサートを行ったとき、朗読を担当して下さった成澤布美子さんがひとり芝居をされるということで、楽しみに観に行きました。
「日本の近代女優第1号」と呼ばれた川上貞奴さんの生涯を描いた1時間半ほどの一人芝居。成澤さんお一人で、川上貞奴さんに関わる男、女、何人もの人物を演じ分けるのです。
成澤さんの身体なのに、私にはそれぞれの人間が目に見えるようでした。
成澤さんによって演じられる人たちのそれぞれの人生に触れて、私の中に何かが残り、私の生きる力もまた、灯がともるように熱いものを思い出しました。
観客の皆様も、驚くほど集中していらっしゃるのが分かりました。
先日「奇跡のレッスン」という番組を見たとき、あるフィギュアスケートのコーチがこんなことを言っていました。
「自分のことばかり考えると緊張する。人を楽しませたいと思い、誰かのために力を発揮しようと思えば、自分も観客も輝く」と。
そして、フィギュアで一番大事な感情は「愛」だと。
「心を開けば、愛を与えることも受け取ることもできる。心が愛で満たされれば、その喜びを表現できる」とも。
成澤さんの演技は、愛に溢れていました。
演じる人物に対する愛、自分の持てる力の全てを、惜しみなく与える姿勢。
そして一方的ではなく、観客と演技でコミュニケーションされていました。
私は以前極度のあがり症でしたが、留学先から帰国し、仕事としてコンサートをさせて頂くようになったとき、変化を感じるようになりました。
それは、今まで「自分がちゃんと弾けるか」ということにがんじがらめになって心を閉ざし、緊張していたのが、初めて「お客様に楽しんで頂くにはどうしたら良いか」を真剣に考えるようになり、心を開いて演奏でコミュニケーションする喜びを感じられるようになったのです。
「どうしたら緊張しないで弾けるのか」というのは、こんなところにもヒントがあるのではないでしょうか。
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