発表会の前後、生徒さんからよくこの質問をされました。
「どうしたら本番で緊張しないで演奏出来るのですか」と。
私は学生時代からものすごくあがるので、自律訓練法をちょっとかじってみたりしましたが殆ど効果はなく、本番で力を発揮できないという悔しい思いを何度もしてきました。
そんな私も留学後、初めて仕事として演奏する機会を与えられ、聴いて下さる方に楽しんで頂くにはどうしたら良いか、ということを考える立場になりました。
そういう経験を重ねていく中で、手が震えて弾けなかったり、足が震えてペダルが踏めなかったり・・というような状態はなくなり、もちろん今でもとても緊張するのですが、本番はわりと自然な演奏ができるようになってきました。
生徒さんに、「どうしたら緊張しないのか」と問われ、よくよく考えてみると、私自身は弾くときに、「演奏し始めたらその曲をずっと歌っていく」ということを心がけているように思いました。
ここをああしよう、こうしよう、と考えて弾くのではなく、本番はその音楽に乗り、身体の中から湧き出てくる音楽を、心を開いて歌っていくのです。
今回の発表会で演奏して下さった70代のHさんは、大人の方には珍しく、暗譜で演奏されました。
本番前のレッスンまでは、演奏中何度か止まってしまうこともあったのですが、本番は最も良い演奏をされ、止まることもなく、すごく集中して弾いていらっしゃることに驚きました。
先日のレッスンで、「本番は素晴らしかったですね。どうしてあんな風に集中できたのですか」とお聞きすると、その音楽を歌っていく、とお伝えした私の言葉が、すうっとHさんの中に入り、理解できたのだと。
「その音楽を歌っていく、というのは、そのときのことに集中する、ということでもありますよね」とおっしゃいました。
なるほど。確かに。
Hさんには本質が伝わったのだな、と感じました。
「そのときのことに集中する」と自然で良い状態でいられるのは、ピアノに限らず、生きていく上でも同じかもしれませんね。